子どもの貧困は、子ども本人の問題であると同時に社会の問題でもあります。
「日本財団子どもの貧困対策チーム」は、子どもの貧困放置による社会的損失を、国民所得1兆円/年、財政収入3,500億円/年と推計しました[17]。
子どもの貧困放置による社会的損失の推計
日本財団・MURCによる推計
日本財団及び三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)が2015年12月に公表した「子どもの貧困の社会的損失推計」 [17]は、15歳時点で相対的貧困状態にあると推定される約18万人について、進学、就職のシナリオを対策を講じなかった場合(現状シナリオ)と講じた場合(改善シナリオ)について設定し(Figure 7)、64歳になるまでの①生涯所得の合計と、②税や社会保障の純負担*の合計を試算しました。
*収入となる税と支出となる社会保障費の差額なので、これが減るということは財政収入が減少することを意味する。
その結果、貧困を放置した場合には、①生涯所得合計は2.9兆円のマイナス(現状シナリオ22.6兆円、改善シナリオ25.5兆円)、②税・社会保障純負担合計は1.1兆円のマイナス(同5.7兆円、改善シナリオ6.8兆円)が、それぞれ生じると推計されました。
Figure 7: 学歴別人口および就業形態別人口の推計結果
日本財団子どもの貧困対策チームによる推計
上述の日本財団・MURCによる推計は、アップデートされて翌2016年に「徹底調査子供の貧困が日本を滅ぼす」 [18]という題名で成書として出版されました。
試算の前提等は両推計でほぼ同じで、①生涯所得及び②税・社会保障純負担に関する推計値も基本的に変わりません。しかし、大きな違いは前者(以下「2015年推計」)では15歳時点のみを試算対象としていたのに対し、後者(以下「2016年推計」)では0 – 15歳の子どもを対象とした点です。もちろん、後者の方がより現実に近い推計と言えます。
2016年推計では、②税・社会保障純負担の推計内訳が「子どもの貧困の社会的損失:1人当たり財政収入・支出」として発表されているので、イメージを掴みやすいと思います(Figure 8)。
数字(マウスオーバーで表示)をざっと見ると、貧困対策を行うことによって、所得税及び社会保険料の収入項目合計が3,939万円から4,527万円に増加(588万円)する一方で、社会保障支出が756万円から740万円に減少(▲16万円)するので、差し引きで純財政収入は3,184万円3,787万円に増加(603万円)するという推計結果になっています。
Figure 8: 子どもの貧困の社会的損失:1人当たり財政収入・支出
(単位:万円)
Source: 徹底調査子供の貧困が日本を滅ぼす [18] Kindle Location 616
年あたり所得1兆円減、財政収入3,500億円減
一時期、子どもの貧困放置で所得損失43兆円という言う数字だけがひとり歩きした嫌いがありますが、正確に言うとこの数字は、2016年推計の結果を基に、ある時点における0 – 15歳の子どもを対象として、それ以降ほぼ生産年齢*に亘って所得を積算した数字です。また、財政収入の減少額15.9兆円も同様です。
2016年推計を見ればちゃんと1年換算値が記載されており、所得の減少額は約1兆円/年、財政収入の減少額は約3,500億円/年と明記されています。
*生産年齢は15歳以上65歳未満を指す場合が多いが、2016年推計では便宜上19歳から64歳までを対象としている(書籍の中で「生産年齢」という言葉は使っていない。)。
[17] 子どもの貧困の社会的損失推計 (2015年12月, 日本財団, UFJリサーチ&コンサルティング [PDF 2 MB]
[18] 徹底調査子供の貧困が日本を滅ぼす : 社会的損失40兆円の衝撃 (2016年09月, 日本財団子どもの貧困対策チーム, 文藝春秋)