子どもの貧困は日本だけの問題ではない
日本の状況
2015年に公表された「相対的貧困率等に関する調査分析結果について」(2015年12月18日、 内閣府、総務省、厚生労働省)は、日本の相対的貧困率が16.1%であることを明らかにしました [1]。感覚ではそれとなく感じていたものの、身近にある貧困を改めて数字で示されて愕然とした方も多かったのではないでしょうか。そして、貧困が最も弱い者を容赦なく直撃する現象が「子どもの貧困」です。
最新版の「グラフでみる世帯の状況」[PDF 12 MB](2018年03月、厚生労働省)によれば、全体の相対的貧困率は15.7%とやや改善しているものの、それでも子どもの貧困率は13.9% [2]でした(Figre 1)。
ここで言う「相対的貧困率」とは、一人当たりの手取り収入が「貧困線」とよ呼ばれる基準額に満たない者の割合を言います。2015年の「貧困線」は122万円でした[3]から、人口全体の15.7%、子ども(17歳以下)に限ってみると13.9%は収入が122万円に満たなかったことになります。
計算の基礎となった2015年の世帯収入は、平均値が545.8万円、中央値が428万円でした(Figure 2)。
〔参考〕このあたりの計算については、「国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問」(厚生労働省)で詳しく解説されています。少々技術的でトリッキーな感じもしますが、結論をゆがめるものではないので、そう言うものなんだと思っておいて差し支えありません。
そもそも「子どもの手取り収入」という言い方もあまり正確ではないですよね。17歳以下で自分で生計を立てている場合(労基法上の制限があり)を除き、「子どもの手取り収入」というのは親などの保護者の収入に他なりません。
Figure 1: 貧困率の年次推移
Figure 2: 所得金額階級別世帯数の相対度数分布
以上のように、ここで議論しているのは相対的な数値なので、仮に国民の収入が急増して全員の年収が一律100万円アップしても相対貧困率は変わりませんが、だからと言って「じゃあ、しょうがないじゃん」と言う話にはなりません。このあたりちょっとわかりにくいので、以下で少し丁寧に見て行きたいと思います。
OECD諸国等の状況
実は子どもの貧困は日本だけの問題ではなく、先進国を含む世界的な問題になっています。最近のOECD調査を見ると、確かに日本の数値(13.9%)はOECDの平均値(13.4%)より高くなっていますが[4]、G7メンバー国であっても、カナダ、イタリア、アメリカは日本よりもさらに深刻な状況です。また、非OECD諸国では中国の数字も気になります(Figure 3)。
なお、英国、米国、スウェーデン、フランス及びドイツにおける子どもの貧困の状況・対策状況については、2016年の春に『諸外国における子供の貧困対策に関する調査研究』報告書(平成27年度内閣府)が発表されていますので、興味がある方はぜひ一読されると良いと思います。
報告書では、子供の貧困に関する各国の、①対策の概要、②子供の貧困実態や対策の実施状況を把握するための指標、③貧困実態下にある子供とその家族に対する具体的な支援、④子供の貧困に関する法制度、施策の実施体制、⑤子供の貧困を巡る世論の動向及び⑥現地関係機関等に対するインタビュー結果が報告されており、とても参考になります。
Figure 3: 子ども(0 – 17歳)の貧困率 国際比較 2015 – 16年(等価可処分所得基準)
[1] 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2012)に基づく数字
[2] 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2016)に基づく数字
[3] 厚生労働省「国民生活基礎調査の概況」(2016), II 各種世帯の所得等の状況
[4] オリジナルデータはOECD Income Distribution Database (IDD)で入手できる。