じゃあ、どうすれば良いのか?
ふたつのアプローチ
子どもの貧困へのアプローチには大きくふたつのアプローチ、すなわち、①相対的貧困率を下げるアプローチと、②負の連鎖を断ち切るアプローチです。
相対的貧困率を下げるアプローチ
「(子どもの)貧困率」を下げるためには、相対的貧困率の定義から言って、所得分布(Figure 6)を変える以外の方法はありません(「子どもの貧困 1」でも述べたように、仮に国民全員の年収が一律100万円アップしても相対的貧困率は変わらない)。
例えば、ありえない想定ですが、国民所得が「偏差値」でおなじみの標準正規分布(ガウス分布)に従ったと仮定すると、中央値 = 平均値 = 50点となり、貧困ラインはその半分の25点 = 貧困ライン以下の面積は全体の0.62%、すなわち相対的貧困率は0.62%となります(2015年のデータに基づく日本全体の相対的貧困率は15.7%、子どもの貧困率は13.9% [11] )。
さすがに所得分布が標準正規分布というのは「ふざけてるの?」と言われてしまうレベルですが、リアルの世界では何らかの方法によってグラフ(より正確に言えば、これを個人所得ベースで書き直したもの)のピークがあまり左側(低所得側)に偏らないようにする工夫をしているわけです。
いや、そもそも格差を根絶してしまうべきだ!と言う主張も有るにはありますが…。
日本の所得分布の変化等に関する論文としては、石井 加代子 (2018)[12]や白波瀬 佐和子 (2018)[13]で興味深い分析が行われています。
[11] 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2016)II 各種世帯の所得等の状況 [PDF 215 KB]
[12] 石井 加代子 (2018) 所得格差の要因と 2010 年代における動向, 日本労働研究雑誌 1月号 (No.690) pp. 4-17 [PDF 787 KB]
[13] 白波瀬 佐和子 (2018) 人口構造の変化と経済格差, 日本労働研究雑誌 1月号 (No.690) pp. 44-54 [PDF 695 KB]
Figure 6: 所得金額階級別世帯数の相対度数分布(再掲)
負の連鎖を断ち切るアプローチ
子どもの貧困は要はおとなの貧困の言い換えに過ぎないという見方は、確かにそうなのですが、 子どもにしてみればたまたま親などの保護者が貧困であったために自分も貧困になり、挙げ句の果てに「社会的排除」の憂き目に遭う筋合いはありません(いや、それが世の中の厳しさだ、というのはこの際ナシ)。
したがって、この家が貧しいと子どもも貧しくなるという「負の連鎖」を断ち切るアプローチがもうひとつのアプローチとなるでしょう。
実際、子どもの貧困対策の推進に関する法律(平成25年法律第64号)[14]第2条①は「子どもの貧困対策は、子ども等に対する教育の支援、生活の支援、就労の支援、経済的支援等の施策を、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない社会を実現することを旨として講ずることにより、推進されなければならない。」と定めています。
なお、同法第8条の規定に基いて定められた子供の貧困対策に関する大綱(平成26年08月29日 閣議決定)[15]のポイントは、同大綱の概要版([PDF 266 KB])にわかりやすくまとめられています。
大綱に基づく主な取組についての最新の状況は、先日(2019年08月07日)発表された「今後の子供の貧困対策の在り方について」(令和元年8月, 子供の貧困対策に関する有識者会議)[16]で知ることができます。
[14] 子どもの貧困対策の推進に関する法律(平成25年法律第64号)
[15] 子供の貧困対策に関する大綱(平成26年08月29日 閣議決定) [PDF 386 KB]
[16] 今後の子供の貧困対策の在り方について(令和元年8月, 子供の貧困対策に関する有識者会議) [PDF 386 KB]