香港人権法案成立
2019年11月27日 香港人権法案 にトランプ大統領が署名
11月27日に「2019年の香港人権・民主主義法案」[1]にトランプ大統領が署名し[2]、同法(以下「香港人権法」)が成立しました。
香港人権法は、 インド太平洋戦略 ( FOIP, AOIP ) にも大きく関係してくる法律なので、まずは同法の周辺を確認してみたいと思います。
香港人権法の章構成を Table 1 に示します。今回の件で中国はブチ切れているわけですが、どのあたりが中国の逆鱗に触れたのか?
機会を改めてきちんと条文を見てみたいと思っていますが、Sec.7, 9 あたりが「ヤバイ」感じですね。
なお、米国が香港状況について毎年レポートを作成することに対して中国政府が内政干渉だとして強烈に反発して対抗措置という報道もありますが、この仕組みそのものは以下で紹介する「1992年の米国-香港政策法」で既に定められていることがらなので、いまさら本当かな?という気はします。
- Sec.1. 略称; 目次
Short title; table of contents. - Sec.2. 定義
Definitions. - Sec.3. 政策方針
Statement of policy. - Sec.4. 米国-香港政策法の改正
Amendments to the United States-Hong Kong Policy Act of 1992. - Sec.5. 米国輸出管理法及び国連制裁決議に係る年次報告書
Annual report on violations of United States export control laws and United Nations sanctions occurring in Hong Kong. - Sec.6. 米国民等の中国への引渡からの保護
Protecting United States citizens and others from rendition to the People’s Republic of China. - Sec.7. 香港における基本的自由及び自治の阻害に係る制裁
Sanctions relating to undermining fundamental freedoms and autonomy in Hong Kong. - Sec.8. 制裁報告書
Sanctions reports. - Sec.9. 中国の国家統制メディアに係る議会声明
Sense of Congress on People’s Republic of China state-controlled media. - Sec.10. 群衆管理機器の香港への商業輸出に係る議会声明
Sense of Congress on commercial exports of crowd control equipment to Hong Kong.
Source: 116th U.S. Congress (2019). Hong Kong Human Rights and Democracy Act of 2019. [1] (GGCS仮訳)
立法の背景
香港人権法は「1992年の米国-香港政策法」(以下「香港政策法」)[3]の改正法として成立したものです。
香港政策法301条(Reporting Requirement: 報告義務)は、「国務長官は下院議長及び上院外交関係委員会に対して米国の利益に係る香港の状況について報告しなければならない」と定めています。
その報告書の最新版である「2019年版・香港政策法報告書」[4]がネットで公開されているので、ちょっと見てみました。
香港人権法の成立にはこの報告書が一定の役割りを果たしているわけですが、どのような内容だったのでしょうか。
2019年版・香港政策法報告書
根拠法
上述のように、香港政策法報告書(以下「報告書」)は香港政策法301条に基づいて作成されます。
法201条(Continued Application of United States Law: 米国法の適用継続)は、 1997年07月01の香港返還後も、米国が香港に認めているさまざまな優遇措置など(最恵国待遇などの「特別な地位」)に係る米国法が引き続き適用されていることを定めています。
しかし、優遇等の根拠となる法201(a)の効力は、香港における自治等の状況を見て、米国大統領が大統領令(Executive order)によっていつでも停止(201(a))及び停止解除(201(d))できます(Fig 1)[3]。
したがって、報告書はそのための重要な資料ということになります。
Fig 1: 「特別な地位」 の停止/回復(香港政策法 Sec.202)
SEC. 202. PRESIDENTIAL ORDER.
(a) PRESIDENTIAL DETERMINATION– On or after July 1, 1997, whenever the President determines that Hong Kong is not sufficiently autonomous to justify treatment under a particular law of the United States, or any provision thereof, different from that accorded the People’s Republic of China, the President may issue an Executive order suspending the application of section 201(a) to such law or provision of law.
(d) TERMINATION OF SUSPENSION– An Executive order issued under subsection (a) may be terminated by the President with respect to a particular law or provision of law whenever the President determines that Hong Kong has regained sufficient autonomy to justify different treatment under the law or provision of law in question. Notice of any such termination shall be published in the Federal Register.
Source: 102nd U.S. Congress (1992). United States-Hong Kong Policy Act of 1992[3] に基づきGGCS作成
主要な結論
2019年版の報告書は「主要な結論」(Key Findings)を以下の3項目にまとめています(Table 2)。
- 米国は、以前と変わることなく深く経済的及び文化的利益を香港に有する。米国政府及び香港政府の協力は様々な分野において今後も広範かつ効果的に行われ、米国に経済上及び安全保障上の重要な利益をもたらす。
- 本報告書の対象期間(*1)において、中国本土中央政府は、香港の高度の自治を認めている基本法(*2)や1984年の英中共同宣言(*3)に反すると見られる行為・煽動を数多く行っている。香港問題及び香港政府の合法的な施策に対する本土中央政府の干渉のテンポは増加しており、直近において負のトレンドが加速している。
- 一般的には、程度は後退したものの、二国間合意に基づいて米国が(香港に対する)優遇措置を維持することを正当化するのに十分な程度には「一国二制度」の枠組み下での自治が維持されている。
Source: Bureau of East Asian and Pacific Affairs, USDOS (2019). 2019 Hong Kong Policy Act Report. [4]
(*1) 2018年05月-2019年03月
(*2) 中華人民共和国香港特別行政区 基本法[5]
(*3) 香港問題に関する英中共同宣言(1984)[6]
各論
「主要な結論」以下の報告書の項目は Table 3 のとおりです。
- 主要な結論
- 米-香港関係の文脈
- 二国間合意と多国間フォーラム:
- 貿易、商業及び金融:
- 米国市民の利益:
- 法執行機関の協力:
- 米軍の活動:
- 制裁措置:
- 輸出管理:
- 学術、文化及び科学における交流:
- 香港に関して米国の利益に係るその他の事項:
- 香港の政治に係る中国本土の政策:
- 結社及び移動の自由:
- 表現の自由:
- 学問の自由:
- インターネット及びメディアの自由:
- 民主的な制度の発展:
- 中国本土政府のプレゼンス:
- 香港政策法に係る調査結果
- 本報告書の対象期間において、法202(a)、202(d)又は201 (b) の適用はなかった(*)。
Source: Bureau of East Asian and Pacific Affairs, USDOS (2019). 2019 Hong Kong Policy Act Report. [4](GGCS仮訳)
(*) 参考(香港政策法)
201(a): 香港の統治権の変更にかかわらず、法律に特段の定がある場合又は202条各号の規定によるときを除いて、香港に係る米国法は1997年07月01日(香港返還の日)前後で変わらず適用されると規定している。
202条(a): 香港の自治が十分に確保されていないと大統領が判断した場合には、大統領は201条(a)の効力を大統領令(Executive order)で停止できると規定している。
202条(d): 香港の自治が回復されたと大統領が判断した場合には、202条(a)で行った停止命令を解くことがでかきると規定している。
中身について、これからもう少し見ていきたいと思います。
References
[1] 116th U.S. Congress (2019). Hong Kong Human Rights and Democracy Act of 2019. Law S.1838 (Google翻訳)
[2] Donald J. Trump (2019). Statement by the President. Statements & Releases, (2017-11-27) (Google翻訳)
[3] 102nd U.S. Congress (1992). United States-Hong Kong Policy Act of 1992. , Law S.1731 (Google翻訳)
[4] Bureau of East Asian and Pacific Affairs, USDOS (2019). 2019 Hong Kong Policy Act Report. (2019-11-04) (Google翻訳)
[5] 中華人民共和国香港特別行政区 基本法. (1982-12-04) (Google翻訳)
[6] Joint Declaration of the Government of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and the Government of the People’s Republic of China on the Question of Hong Kong. (Google翻訳)