GSOMIA 失効 / 再締結のシナリオ
日韓 GSOMIA (以下「GSOMIA」)の失効(2019年11月23日+09:00)まであと3日となりましたが、一発逆転、失効回避(再締結)の可能性はあるのでしょうか。
おおむね趨勢は決したと見て関係者もそれなりの準備を進めているようでもあり、また、21日にも韓国国家安全保障会議( NSC )で結論が出るようですが、念のため状況を整理してみました。
4つの形式的シナリオ
シナリオの形式的な組み合わせとしては次の4通りが考えられます — ①日本が管理強化を維持したため韓国は GSOMIA 破棄を維持(→ 協定失効 )、②日本は管理強化を維持したが、何らかの理由で韓国が破棄撤回(→ 再締結 )、③日本が管理強化を緩和したので、韓国も破棄撤回(→ 再締結 )、④日本が管理緩和したにも関わらず韓国は協定破棄を維持(→ 失効 )(Fig 1)。
基本シナリオ
①は現在進行中のシナリオです。日本が安全保障貿易管理(以下「管理」)強化(「 ホワイト国 」外しなど)を緩和することは無いと見られていますから、このシナリオがそのまま進めば韓国は GSOMIA 破棄(以下「協定破棄」)の方針を維持して協定は失効します。
③に関しては、日本が管理の緩和を行うなら韓国としては協定破棄の撤回を行う用意がある — という趣旨の韓国の発言が報じられています[1]。
失効回避シナリオ
GSOMIA 失効が回避されるシナリオは、②と③です。
②は、日本が 貿易管理 強化を維持した状態で韓国が譲歩して協定破棄を行うシナリオで、米国がプッシュしているシナリオと見られます。
③は、上述のように日本が貿易管理強化を緩和するシナリオで、日本の譲歩(?)に応じて韓国も協定破棄を撤回するというもので、各種報道によれば現時点(2019-11-20T21:24+09:00)で韓国側が示唆しているシナリオです。
※ ④は、日本が貿易管理を緩和したにも関わらず韓国が自らの発言に反して破棄撤回を行わないと言うシナリオですが、さすがにこれは検討する必要は無いでしょう。
ここで、日本が管理強化を維持する確率をp、この条件の下で韓国が協定破棄を撤回する確率をqとし、日本が管理強化を緩和する条件で韓国が協定破棄を撤回する確率をrとすると、GSOMIA が再締結に向かう確率は、\(pq+(1-p)r \) となります。
初期値は \(p = 1, q = 0, r = 1\) と考えて差し支えないので、再締結に向かう見込みは \((1\times0)+\{(1-1)\times1\}=0 \) (ゼロ)ということになりますね(わざわざ計算する必要も無いことですが😅)。
動く可能性がある変数は、p(日本が管理強化を維持する確率)とq(この条件の下で韓国が協定破棄を撤回する確率)ですが、みなさんはどう評価されますか?
土壇場でのどんでん返しの可能性は?
変数 q が破棄確定に張り付く可能性
変数 q(貿易問題とは関係なく韓国が協定破棄を撤回する確率)がギリギリのタイミングで動き、韓国が無条件で協定破棄撤回に動く可能性はないでしょうか?
実はそもそもGSOMIA締結時も、2012年06月29日の午後予定されていた調印が1時間前に韓国政府からの申し入れでドタキャンされたという経緯があります[2]。
過去にこのようなこと — ちょっと信じがたいことですが — が本当にあったと言う事実を考慮すると、本当に期限ギリギリになって韓国側が翻意する可能性があり得ないとは言い切れないところがあります。
もっとも、このときのドタキャンはネガティブな方向への翻意でした。もともと韓国国内のベクトルは反GSOMIAに向いており[3]、協定締結後もずっとチャンスさえあればいつでもスナップバックが効く状態にあったと見て良いと思います。
それを考慮した場合には変数 q が協定破棄撤回に方向に動く可能性は相当低いことになります。
変数 q が GSOMIA再締結方向に動く可能性
一方、各種国内報道[1]でも伝えられるように、韓国に対する米国の働き掛けも重要なファクターです。
これに関連して、先週日曜日(11月10日)のオンライン版 Voice of America は、GSOMIAをめぐる日韓のごたごたが米韓軍事同盟に影を落としている状況を詳しく報じています[4](少し長い記事ですが読み応えがあります)。
安全保障貿易問題は実質的にも重要ファクターではなくなっている
以上を振り返ると、いわゆる「 ホワイト国 」外しなど日韓間の安全保障貿易問題は今後3日弱の状況にはほとんど影響を与えない状況になっていることがわかります。
では、何が支配的ファクターなのか?怖いですね😱
追記
NHK速報によると、韓国政府側から「 GSOMIA終了通告を停止 」する旨を日本政府に伝えてきたとのこと。シナリオ②で進むようです。(2019-11-22 17:00 追記)
と、思いきや続報を見ると必ずしも破棄撤回というわけでは無いようです。要は「締め切りを延ばしてもらいたい」の言い換えのようですね…。
References
[1] 日本経済新聞電子版 (2019/11/17 23:00). “GSOMIA迫る期限 協定延長に条件、韓国譲らず”
[2] 菊池 勇次(2012).【韓国】日韓秘密情報保護協定の署名延期 外国の立法, 2012.8 国立国会図書館調査及び立法考査局 [PDF 410 KB]
[3] 林 隆司(2014). 日韓軍事情報包括保護協定(日韓 GSOMIA)締結延期の要因分析 海幹校戦略研究 第4巻第2号, 2014年12月, pp. 76 -98 [PDF 450 KB]
[4] Christy Lee (2019). “US-South Korea Alliance Under Pressure as Deadlines for Military Pacts Approach” Voice of America, 2019-11-10 15:45 ( EN | Google翻訳)